2023.03.17
人事評価の評価手法には、大きく分けて「相対評価」と「絶対評価」の2種類があります。簡単にいえば、相対評価は評価対象者を他のメンバーと比較して評価を行い、絶対評価は目標の達成度など評価基準と比較して成果や能力を評価します。人事評価制度においては、この両者の違いを理解しておくことが重要です。
この記事では、人事評価制度における相対評価と絶対評価の違いと、相対評価を導入する際のポイントや注意点について解説します。
目次
人事評価制度における「相対評価」の概念や絶対評価との違いについて、以下の3つの観点から見てみましょう。
「相対評価」とは、特定の集団内で個人のスキルや能力を他者と比較して、相対的な位置を決める手法です。相対評価を実施する際は、「S評価は上位10%」「A評価は10~30%」「B評価は30~50%」のように、あらかじめ評価の分布を決めておきます。そのため、相対評価は評価結果に偏りが出ることがありません。
また、相対評価は集団全体のレベルによって、評価対象者の順位が大きく変わります。例えば、まったく同じ結果を出したとしても、集団のレベルが低ければ評価結果は高く、逆にハイレベルな集団に属していれば低い結果となります。
このように、相対評価は個人の能力そのものではなく、あくまで集団内で相対的に順位をつけて評価するのが特徴です。
「絶対評価」は、あらかじめ設定した評価基準に従って、個人の能力を評価する手法です。評価基準とは、新規案件の獲得件数が「30件以上はS評価」「20~29件はA評価」「10~19件はB評価」などのように、条件に応じたランクづけをします。そのため、絶対評価では他のメンバーの結果に左右されず、個人の結果がダイレクトに評価されるのが特徴です。
ただし、絶対評価はあらかじめ設定した評価基準によっては、評価結果に大きな偏りが出ます。例えば、先ほどの例でメンバー全員が新規案件を30件獲得した場合、評価結果は全員がS評価となります。また、「評価基準が曖昧」「数値で判断できない」などの場合は、評価者の主観に影響されがちです。
このように、絶対評価は個人の能力に焦点を当てた評価ができますが、適切な評価基準の設定や担当者の評価スキルが要求されます。
相対評価と絶対評価の違いは「評価の基準」です。前述したように、相対評価は「他者」、絶対評価は「評価基準」と比較します。相対評価は、あらかじめ評価ランクごとの人数が決められており、そのランクに個人を振り分けていくイメージです。一方の絶対評価は、評価ランク達成のための条件が決められており、その条件を達成できたかどうかでランクをつけていきます。
ある成果を出したときの評価値は、相対評価では他メンバーの成果に依存し、絶対評価はあらかじめ決めた評価基準に依存します。例えば、試験で80点とったときに、最上位のS評価を獲得できるかどうかを考えてみましょう。相対評価の場合は「ある集団の中で80点という成績が最上位に位置するかどうか」で決まり、絶対評価では「80点はS評価の基準内かどうか」で決まります。
言い換えれば、相対評価は考課対象の集団全体のバランスを重視し、絶対評価は個人の能力を反映した結果が出やすいことが特徴です。また、相対評価は高評価をとれる人数を完全に予測できますが、絶対評価は予測できないこともポイントです。
ここからは、人事評価制度で相対評価を採用するメリットについて見ていきましょう。主に以下のようなメリットが挙げられます。
一方で、相対評価には以下のようなデメリットもあります。
以上の点を踏まえ、人事評価における相対評価のメリット・デメリットを解説します。
相対評価は「順位」をつければ結果が決まるので、評価担当者の負担が少ない手法です。個人のスキルや成長度などを厳密に検証しなくても、メンバー同士を比較して順位をつければ自動的に評価値が定まります。
相対評価は各メンバーの成績によって、それぞれの評価値が自動的に決まります。そのため、評価結果が評価者の主観に影響されにくく、基本的に誰が考課してもバラつきが生じません。また、各ランクに該当する人数が決まっているので、全体の成績に関係なくバランスの良い結果が得られます。その点では、従業員の公平感をつくりやすい手法だといえるでしょう。
相対評価では、組織内で明確な順位づけが行われるため、他の従業員より良い成果を出さなければ高評価が得られません。そのため、従業員同士が自然と競うようになり、それぞれが積極的にスキルアップを図る効果が見込めます。また、お互いに切磋琢磨できる環境が整うことで、企業全体の生産性が上がることも期待できるでしょう。
相対評価による評価値は、あくまでその集団内での順位に過ぎません。前述したように、集団全体のレベルによって、相対評価の結果は大きく変動します。例えば、あるチームで優秀な評価を得ていた従業員が別チームに異動した途端に、評価が大きく下がることもあり得ます。「異動後のチームに所属する従業員のレベルが、異動前のチームよりも高かった」ということが理由です。
つまり、相対評価は個人の能力を反映させた評価が行いづらく、人事異動の際は所属する集団のレベルと、個人のスキル・経験を踏まえて、適切な配置を行う必要があります。しかし、相対評価は必ずしも純粋な個人の能力を示すものではないため、人事異動がスムーズに行えない場合があるかもしれません。
相対評価は他者と比較するため、被考課者の過去からの成長度合いは反映できません。そのため、前回より良い成果を出したにも関わらず、集団全体の成績が底上げされれば評価が下がってしまうこともあり得ます。
純粋な個人の努力や成長が評価されづらいため、「頑張っているのに評価されない…」と従業員のモチベーションが下がりかねません。また、個人のスキルアップが評価に結び付きにくいため、人材育成に活用しづらいこともあるでしょう。
相対評価は、集団のレベルが評価の基準になるので、どこに所属するかによって評価が変わります。その影響で、能力が高いはずの従業員が低い評価を受けてしまうこともあります。言い換えれば、「周りの評価が低ければ、自分の評価が上がる」ということです。
競争意識が過剰に刺激されると、情報やアイデアを他のメンバーにあえて共有せず、メンバーの足を引っ張るような動きが出る恐れがあります。
ここからは、人事評価制度で絶対評価を採用するメリットについて見ていきましょう。主に以下のような点が挙げられます。
一方で、絶対評価には以下のようなデメリットもあります。
以上の点を踏まえ、人事評価における絶対評価のメリット・デメリットを解説します。
絶対評価は、評価基準つまり目標の達成度で評価が決まります。他者と比べられるわけではなく、設定された基準をもとに評価が決まるため、従業員の納得が得やすいです。評価値が低かった場合は、基準と照らし合わせることで、「どこに問題があるか」「達成するために何ができるか」など、建設的な振り返りもできます。従業員のスキル向上に適した評価手法だといえるでしょう。
絶対評価は「個人」に注目するので、成長して目標を達成すれば以前より高い評価が得られます。個人の成長度が評価に反映されやすいので、従業員のモチベーションも上がりやすいでしょう。人事育成の観点からも、従業員の成長を分析でき人材育成や人事育成の戦略策定に役立ちます。例えば、成長プロセスを段階ごとに目標化すれば、従業員の自律的な成長を促進できるでしょう。
絶対評価は基準が明確なので、評価を受ける従業員が抱えている課題点を洗い出すことができます。「目標の達成度」を基準とすれば、「OKR(達成目標と主要な成果)」や「MBO(目標管理制度)」など、目標管理を重視する人事評価制度との相性が良好です。
また、絶対評価を行うと、評価者が従業員にヒアリングするときに課題点について適切なアドバイスがしやすくなるため、スキル成長を効果的にサポートできるでしょう。
絶対評価は、評価基準の設定が難しい傾向があります。基準が高すぎても低すぎても、多くの従業員の評価が偏るため、評価基準として不適切です。評価結果の分布が平均的な範囲に収まるようにするためには、現在の従業員の実力や過去のデータを分析する必要があります。
また、部門や職種によって目標も異なるので、全社的に公正な評価基準を定めるには相当の時間と手間がかかるでしょう。
絶対評価は、評価者によって結果のバラつきが生じやすいです。売上額や成約数など、数値で判断できる評価基準であれば、どの評価者でも同じ結果が得られます。
しかし、勤務態度やコミュニケーション能力など、明確な数値などの基準がないものは評価者ごとに「甘辛」が生じます。評価を誰が担当するかによって評価が変わると、従業員のモチベーションに悪影響があるため、評価の偏りを補正する仕組みが必要です。
絶対評価は、あらかじめ結果を予測することが困難です。従業員の働きぶりが良ければ、想定より多くの従業員が高評価を得ることもあります。しかし、人事評価は従業員の待遇や給与額に影響するため、評価結果が高い従業員が多すぎると人件費が高騰します。そのため、データを活用してバランスの良い評価基準を設定できる仕組みや、評価結果を平均化できるような工夫が必要です。
働き方が多様化し、バラエティに富んだ個々の人材を適切に評価する必要がある現在のビジネス環境において、特定の集団の中だけの人材を比較して順位づけをする「相対評価は時代遅れ」といわれることもあります。ただ大切なのは、自社に合った評価制度を採用し、従業員が不満を抱えることなく経営にも良い影響をもたらす評価制度を運用することです。
そのため、人事評価制度に相対評価を導入する際は、以下の3つの運用ポイント・注意点を意識するといいでしょう。
相対評価を導入する場合は、「どの評価に何割の人が該当する」という「評価の分布」を定める必要があります。例えば、「S評価は上位10%」「A評価は上位10%~30%」などです。相対評価は、周囲の成績によって自身の評価が変わるので、評価制度に対して従業員が不満を感じやすい傾向があります。そのため、こうした評価基準は事前に必ず全社的に共有しておくことが重要です。
人事評価は、従業員の待遇や給与額にダイレクトな影響を与えるため、納得感と公平さを重視して運用することが重要です。結果に不満を感じる従業員が増えると、モチベーション低下の原因となり、労働生産性も下がる結果につながりかねません。前述したように、評価基準をあらかじめ公表することはもちろん、進捗や結果を可視化し、評価時のフィードバックを丁寧に行うようにしましょう。
相対評価は単独で運用するのではなく、絶対評価のような他の評価手法と併用するのもおすすめです。相対評価と絶対評価は、それぞれ向いている評価対象が異なるからです。
例えば、エンジニア職や事務職などのような、成果が出るまで時間がかかる職種や、評価基準の明確化が難しい職種は相対評価が適しているでしょう。一方、営業職のような具体的な数値目標を設定しやすい職種には、絶対評価のほうが人材育成に効果的です。
また、人事評価を段階的に行うという方法もあります。例えば、一次評価として絶対評価を行い、二次評価を相対評価で行うなどです。このようにすると、個人の努力を反映した評価を行いながら、グループ内での順位づけで競争力を高めることもできます。多角的な人事評価手法を採用することで、公正公平な従業員制度を実現できるでしょう。
評価担当者の主観や偏りを防ぎ、従業員の不公平感を解消するためには、相対評価の導入が有効です。人事評価で相対評価を行う場合は、「目標管理」や「コンピテンシー」などによる絶対評価を集計・転記し、相対評価に変換します。しかし、従業員数が多いほど業務負担が大きくなるため、リソースが圧迫されるケースもあるでしょう。
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人事評価シートDXが選ばれる理由
企業の人事評価に相対評価を導入することで、担当者の主観による不公平な評価を防ぎ、従業員が納得しやすい人事評価を実現しやすくなります。従業員同士の競争が活性化し、企業の生産性が上がることも期待できるでしょう。
ただし、相対評価だけでは従業員の努力やプロセスを評価しづらいので、絶対評価などの手法を組み合わせることも重要です。さらに、人事評価システムを導入することで、より公正公平な人事評価制度を運用しやすくなるでしょう。