2022.04.13
人事評価基準の透明化や、従業員の成長を促すことを目的として、多くの企業が人事評価制度を導入しています。
しかし、日本経済新聞社が実施した調査では、人事評価制度が「不満」「どちらかというと不満」と回答したビジネスパーソンは全体の37.8%に達しています。
人事評価制度がうまくいかないのは、「評価基準が明確に示されていない(41.0%)」「評価者の好き嫌いで評価される(38.7%)」など、人事評価制度の制度設計や運用に問題があるためです。
この記事では、人事評価制度のメリットや導入までの流れ、人事評価制度を運用するときのポイントについて解説します。
社会保険労務士:蓑田真吾(当記事執筆・監修)
目次
人事評価制度とは、従業員の成果やスキル、働きぶりを客観的に評価し、昇給・昇進といった処遇に反映させるための制度です。
人事評価制度の果たす機能は、大きく分けて次の3点です。
評価制度 | 企業のビジョンや経営理念に基づいて、従業員の職務遂行能力や目標の達成度を評価する |
等級制度 | 企業内の等級に応じ、等級ごとの役割や待遇を決定する |
報酬制度 | 評価制度や等級制度に基づき、従業員一人ひとりに適切な報酬を与える |
代表的な人事評価制度として、「目標管理制度(MBO)」「コンピテンシー評価」「360度評価」の3つが挙げられます。
目標管理制度(MBO) | 従業員が自主的に個人目標を設定し、上長が定期的に目標の達成状況を評価する制度 |
コンピテンシー評価 | 企業にとってモデルとなる従業員像をベースとして、成果や業績だけでなく、従業員の行動特性を評価する制度 |
360度評価 | 上長だけでなく、同僚や部下などさまざまな角度から人物評価をおこなう制度 |
組織風土や企業文化によって向き不向きがあるため、自社に合わせた人事評価制度を導入することが大切です。
人事評価制度をスムーズに運用するためには、以下の点を押さえておかなければなりません。
求める人材の明確化 | 評価者の主観による評価のばらつきが出ないよう、会社が求める人材を定める |
評価者間の共通認識 | 評価者で会議を実施し、評価基準の共通認識をもつ |
評価範囲の擦り合わせ | ある程度評価者の裁量を認めつつ、評価範囲の認識を擦り合わせ、適切な評価につなげる |
まずは、会社が求める人材像を明確化しなければなりません。特に絶対評価の場合、評価者の主観によって評価にばらつきが出る可能性があります。
また、評価基準を決定する際は、会議を実施して評価基準について共通認識をもつことが重要です。運用後に評価のばらつきが発覚した場合、評価自体を再度やり直さなければならない可能性もあります。
次に、評価範囲の擦り合わせを実施します。評価者によって項目の優先度が異なると適切な人事評価を行なうことができません。なお、評価範囲はある程度評価者の裁量を認め、評価内容が固定化しすぎないよう配慮しましょう。5段階評価に設定するなど、会社にとって適切な評価範囲を見極めることが大切です。
人事評価制度を作成する際は、以下の点も注意しておきましょう。
人事評価制度を運用する際は、評価の基準や重要視する点などを周知しておくべきです。事前に人事評価の概要を公表しておけば、組織として従業員に求める成長の方向性を示すことができます。また、評価結果に関する従業員側の不満、不安の解消にもつながります。
また、人事評価の項目は、状況に応じて修正していかなければなりません。評価項目について評価者や従業員から指摘があった場合、その都度修正していくべきです。
人事評価制度では、従業員のフォローアップも必要です。評価対象となる従業員の力量は、当然多少なり差があります。しかし、中には努力する方向性を誤っており、本来の能力を活かせていないケースもあるでしょう。会社側は評価期間内に面談の機会を設けるなどして、一人ひとりの従業員とコミュニケーションを取り、成長をサポートすることが大切です。
人事評価は従業員の「査定」ではなく、従業員の成長を促すことを目的とした制度であるべきです。
会社側は、人事評価を前に従業員が萎縮して消極的になり、本来の能力を発揮できなくなってしまうことのないよう、十分配慮しなければなりません。
制度の導入について従業員に説明する際は、あくまでも前向きな「評価」であることを周知しましょう。また、従業員に対するフォローアップの内容などにも触れ、会社全体で成長を目指す姿勢をアピールすることも大切です。
もちろん、制度の運用中に会社側と従業員側で認識のずれが生じる場合もあります。評価制度の概要を説明する機会は継続的に設けるとよいでしょう。
人事評価制度を形骸化させないためには、6つのステップで制度設計をおこなう必要があります。
なお、人事評価制度の導入にともない、就業規則や給与規定を変更する場合は、労働基準法により所轄の労働基準監督署への届出が必要です。
そもそも、なぜ人事評価制度を導入する必要があるのでしょうか。
人事評価制度を導入する3つの目的を解説します。
人事評価制度は「評価制度」「等級制度」「報酬制度」の3つの機能を持っています。
あらかじめ設定した評価基準に基づき、等級に応じた報酬を従業員に与えるのが人事評価制度の狙いです。
そのため、人事評価制度を導入することで、管理者の主観によらず、合理的な根拠に基づいて従業員の処遇を決めることができます。
昇給・昇進への不満や不公平感を取り除き、透明性のある人事評価をおこなうことが可能です。
人事評価制度を導入すれば、従業員一人ひとりの強みや弱みがはっきりします。
とくに人事評価システムを導入している場合は、従業員の成果やスキル、働きぶりを一元管理できるため、より正確に従業員の特性を把握できます。
人事評価制度に基づいて人員配置や配属部署を見直すことで、より従業員の特性に合った活躍の場を用意することが可能です。
人事評価制度を導入し、従業員が達成すべき目標を明確化することで、従業員の成長を促す効果が期待できます。
とくに目標管理制度(MBO)は従業員が自主的に目標を設定し、目標達成に向けてスキルアップを目指すため、人材育成効果が期待できる制度です。
人事評価制度に刺激を受け、スキルアップに取り組む従業員が増えることで、企業全体の業務効率化や生産性の向上につながります。
人事評価制度を導入すれば、従業員のやる気やモチベーションの向上、企業理念の浸透など、さまざまなメリットを得られます。
しかし、人事評価制度にはデメリットもいくつかあります。人事評価制度のメリットだけでなくデメリットについて知り、制度設計を見直すことが大切です。
まずは人事評価制度のメリットを紹介します。
従業員の成果やスキル、働きぶりを適切に評価し、昇給や昇進といった形で還元することで、従業員のやる気やモチベーションが高まります。
そのためには、人事評価の基準を明確化し、納得感のある人事評価制度を設計する必要があります。
人事評価制度を導入すれば、従業員は人事評価の基準を意識し、目標達成を目指しながら日々の業務を遂行します。
そのため、企業として望ましい従業員の人物像を人事評価の基準に反映させることで、企業のビジョンや経営理念を浸透させることができます。
一方、人事評価制度にはデメリットが2つあります。
人事評価の基準に納得感がなく、「曖昧」「主観的」だと感じられる場合、従業員のやる気やモチベーションを低下させる可能性があります。
従業員の意欲低下を防ぐには、可能な限り現場の従業員へのヒアリングやインタビューを実施し、人事評価の基準を明確化していく必要があります。
新しく人事評価制度を導入する場合、一定の手間やコストがかかります。
たとえば、人事評価の基準の明確化のために人事評価シートを取り入れる場合、評価の入力・集計・転記といった作業が発生します。
従業員数が500名を超える中堅企業の場合、紙の人事評価シートを回収するだけでも大変です。
そのため、必要に応じて人事評価シートをシステム化するなど、人事評価制度の効率的な運用を目指す必要があります。
人事評価制度を運用するときのポイントは2つあります。
従業員の目標設定をおこなうときは、SMARTの法則に基づき、具体的で明確な目標を設定できているかどうかチェックしましょう。
また、人事評価制度をより効率的に運用するには、紙やエクセルでの管理を脱却する必要があります。
人事評価システムの導入など、人事評価のシステム化を実現することで、人事評価制度の運用の手間を削減できます。
従業員のやる気やモチベーションを引き出すうえで重要なのが「目標設定」です。
たとえば、目標管理制度(MBO)は目標設定とフィードバックを繰り返し、従業員のスキルアップや業績アップを目指す制度です。
具体的でない目標や実現不可能な目標を設定しても、従業員の成長にはつながりません。
人事評価制度の目標設定に役立つのが、SMARTの法則と呼ばれるフレームワークです。
SMARTの法則を意識して従業員の目標設定をおこなうことで、人事評価制度の導入効果をより高められます。
人事評価制度を効率的に運用するためには、人事評価プロセスのシステム化が必要不可欠です。
多くの企業では、紙やエクセルで人事評価シートを作成し、人事情報を管理しています。
しかし、紙やエクセルでの人事評価には、「評価項目の入力・集計・転記の手間がかかる」「テレワークやリモートワークに対応できない」「従業員の人事評価シートの提出が遅れる」といった課題があります。
人事評価をシステム化し、Webで目標設定や自己評価をおこなえるようにすることで、人事評価制度に関する無駄な事務作業を削減することが可能です。
人事評価制度を導入すれば、従業員のやる気やモチベーションを高め、企業全体の生産性を改善できます。
しかし、人事評価制度の基準が「曖昧」「主観的」な場合、逆に従業員の意欲低下につながる可能性があります。
人事評価制度の導入までのフローを確認し、現場の従業員にとって納得感のある制度設計を意識しましょう。
人事評価制度を運用するうえで欠かせないのが、人事評価の仕組み化・システム化です。
人事評価制度を設計する過程で、効率的な運用に向けたITシステムの導入を検討しましょう。
人事評価制度をシステム化するときにネックになるのが、「紙やエクセルで作成した人事評価シートをどのように移行するか」という課題です。
しかし、人事評価シートDXなら、既存の人事評価シートをそのまま利用し、Web画面での評価入力や目標設定が可能です。
「人事評価システムを導入したいが、既存の業務フローは変更したくない」場合は、ぜひ人事評価シートDXの導入をご検討ください。
社会保険労務士独立後は労務トラブルが起こる前の事前予防対策に特化。法改正内容を踏まえながら、ヒアリング内容を基に、企業に合った様々な労務管理手法を積極的に取り入れ、企業の人事労務業務をサポートしています。