2023.03.17
人事データ分析とは、企業において、従業員の勤怠や給与、人事評価など人事関連のデータを分析する取り組みのことです。これにより、最適な人材配置をはじめ、採用活動や人材育成への活用、定着率の向上などの効果が得られます。
この記事では、人事データ分析の目的やメリット、分析手順、人事データ分析に役立つツールなどについて解説します。
目次
はじめに、人事データ分析の概要や目的、分析対象について見ていきましょう。
「人事データ分析」とは、従業員の勤怠や給与、人事評価など人事関連のさまざまなデータを分析することです。これまで目に見えづらかった人事領域の「経験」や「勘」による判断を、データに基づいて統計学的・論理的に解析します。
人事データ分析は「ピープルアナリティクス」とも呼ばれており、分析したデータを活用することで、人材配置の最適化をはじめ、採用活動や人材育成への活用など、組織の人的資源を最大限に活かすことにつながります。
人事データ分析は、主に以下のような目的で行われます。
上記のように、人事データ分析は人材に関するあらゆる課題に活用できます。特に、事業発展に大きく影響するのが「生産性の向上」です。
従業員の生産性は、担当する業務内容や人員配置、待遇の影響を強く受けます。これらの要素に関する人事データを分析して課題を改善・最適化すれば、生産性向上を図ることが可能になります。
人事データ分析の対象となるデータの種類は、さまざまです。例えば、以下のようなデータを対象とします。
データの種類 | 分析できる内容 | 活用の方法 |
---|---|---|
評価データ | 人材の能力が分かる | 人員配置や人材育成 |
退職者データ | 退職理由が分かる | 離職率の低減や組織改革 |
勤怠データ | 従業員の勤務状態が分かる | 労働環境や残業時間の改善 |
そのほかにも、人件費や採用コスト、年齢や性別など多様性にかかわる情報、保有スキルや資質、有給休暇の取得率、時間外労働時間など、分析対象となるデータは数多くあります。人事データ分析はあらゆる業種で活用可能ですが、活用目的によって使用するデータの種類は異なります。
人事データ分析が注目されている理由として、以下の2つの背景が挙げられます。
人事データ分析が注目される大きな理由が、生産年齢人口(15~64歳)の急激な減少です。厚生労働省の発表データによると、生産年齢人口は2019年から2030年にかけて632万人減り、2030年から2065年にかけては2,346万人減少すると考えられています。
そのため、あらゆる業界・企業で「人材をいかに確保・活用するか」が課題となっています。人事データ分析により、限られた人的資源を最大限に活用した人事活動を行うことで、一人一人の従業員や組織の生産性が向上し、生産年齢人口の減少にも対応できます。
ビッグデータの収集・活用をはじめとする、先進テクノロジーの発展も、人事データ分析が注目される理由です。
データ分析の技術向上や有益なツールの登場により、社内の膨大なデータを活用できるようになりました。言い換えれば、これからの人事活動には、IT技術の活用が欠かせないということ。将来的に企業が成長を続けるためにも、人事データ分析の重要性が増しています。
人事データ分析を活用することで、以下のようなメリットや効果が得られます。
採用活動には多大な工数とコストがかかるため、採用プロセスの効率化によるコスト削減が必要です。人事の採用データを分析すれば、自社にとって理想的な人材の傾向やモデルケースを把握できます。適性テストや面接の段階で、採用候補者とモデルケースを比較することで、採用のミスマッチを減らせるでしょう。
また、一連の選考過程において、データ分析によってカットできる工程もあります。例えば、データ分析で、自社にとって活躍する可能性のある人材の傾向を把握する仕組みを作っておけば、面接の回数を減らせるかもしれません。
人事の出口面接・退職者データを詳しく分析すれば、退職理由の傾向が明らかになります。労働環境、社内制度、人事評価基準など、退職のきっかけとなる課題点を把握・改善することで、従業員の定着率向上に役立つでしょう。
前述したように、将来的に労働人口は大幅に減少して深刻な人手不足になるのは明白です。優秀な人材を確保し、定着する環境を作ることは、業界における自社の優位性を保つためにも欠かせません。
離職率を改善する取り組みは、従業員にとって「働きやすい職場環境」の実現にもなります。その結果、従業員は企業に対する満足度・エンゲージメントを高め、パフォーマンスの向上が期待できます。
また、生産性向上と相関性のある事項がないかデータ分析することで「どこを改善すれば生産性の向上につながりやすいか」を統計学的・論理的に検証することも可能です。例えば、勤務体系、有給休暇や長期休暇の取り方、福利厚生の活用、チーム編成の仕方(人間関係)などです。データに基づいて検証するため、再現性が高く、根拠のある人事施策を実行できるでしょう。
各部門や職種の人事評価基準とそれを満たす人材像、つまり高評価を得ている人材の特徴を分析することで、企業が求める人材の育成を効果的に進められます。理想とする人材が持っている能力やスキルを整理し、体系化すれば、他の従業員に不足しているスキルを習得してもらう際でも「具体的にどんなスキルを学べばより効果的か」が明確となり、役立つでしょう。
また、各種研修やカウンセリングなど、人材育成のプロセスで得られるデータを活かせば、人材育成のやり方やカリキュラム改善といった教育品質・精度の向上ができます。データが蓄積されれば、より効果的な教育カリキュラムのあり方が統計学的に分析可能です。
人事データ分析で企業のさまざまな課題を解決しようとする姿勢は、従業員にとって魅力的に感じられます。例えば、非効率な作業を改善することで労働環境が良くなれば、従業員は「ムダな作業がなくなり、より短時間で効率的に無理なく働くことができる」と感じるでしょう。こうした取り組みを続けることで、従業員は企業への信頼を強め「従業員が定着しやすい企業」となります。
人事データ分析を行うための手順について、以下の3つのステップに分けて解説します。
まずは、「何のために人事データ分析を行うか」を考えます。分析の目的によって、必要な人事データの種類や分析手法が大きく変わるからです。基本的には、企業が抱えている課題が分析目的となります。例えば、「離職率の高さ」「生産性の低さ」「採用のミスマッチ」などが、主な課題として挙げられるでしょう。
目的を明確化できたら、課題の原因について「仮説」を立てます。例えば、離職率の高さが問題点の場合は、「入社後のオリエンテーションや研修、OJTに問題があるのではないか」などです。課題を解決するために、入社3か月後の状況や1年後の実績評価など、「どの人事データを活用するか」も合わせて検討しておきましょう。
人事データ分析の目的と仮説が決まったら、実際に分析するために必要な人事データを収集します。例えば、離職率が高い原因を分析したいのであれば、出口面接や退職者のデータが役立ちます。離職者の特徴が分かれば、根本的な原因を明確化し、改善のための施策を講じられるからです。
重要なポイントは、できるだけ幅広いデータを収集することです。問題解決のための「傾向」がどのデータから出現するかは、実際に分析するまで分かりません。意外なデータが解決の糸口になることもあるため、決めつけや思い込みを排除して、収集データを限定しないようにしましょう。
収集したデータを分析して、データの傾向を抽出しましょう。このとき、最初に立てた仮説と比較することが重要です。分析の結果、仮説と明らかに異なる結論が得られることがあります。この場合でも、分析やデータに誤りがあるケースは稀です。人事データ分析は、企業が蓄積した数字から得られたものなので、心情的に直視したくない結論であっても、真摯に向き合う必要があります。
結果の考察が完了したら、得られた分析結果に基づいて、改善のための施策を立案しましょう。例えば、離職者が「人事評価制度」に不満を抱えている傾向が明らかになった場合は、人事評価制度の改善が必要です。
人事データ分析を行う際は、以下のようなポイントや注意点を意識しましょう。
データ分析は、統計学的・論理的に行うのがポイントです。一般的にはITツールを用いて数学的な手法で実施するため、分析に活用するデータは、数値など「定量的」なものであることが好ましいです。
また、インプットするデータに主観が入っていたり偏ったデータだったりすると、適切な分析を行えなくなってしまうため注意が必要です。できるだけ数値化されたデータの収集をすることや、アンケートデータを収集する場合は、自由回答ではなく選択式で回答できるようにするのが望ましいでしょう。
データ分析をする前には、解決すべき課題と、大まかな仮説を立てておかなければ「どんなデータをどのように分析すべきか」分かりません。仮説なしで進めると、ただ大量に集めたデータを眺めるだけで、分析の手がかりが見つけられない可能性があります。
そのため、例えば「離職率の低減が実現できないことは、●●か●●に阻害要因があるかもしれない」という課題と仮説を明確にして、データを収集するのが効率的です。原因を示す「傾向」の手がかりが見つけられない場合は、その課題や仮説自体が誤ったものかもしれません。また、収集しているデータが見当違いの可能性もあります。
データ取り扱いに関するセキュリティ対策を講じることも重要です。人事データ分析では、企業が保有する機密データや、従業員のプライバシーに関する情報を取り扱うことになります。情報漏洩のリスクを防ぐためには、強固なセキュリティ対策が欠かせません。
情報漏洩は外部からのサイバー攻撃だけではなく、内部からの故意・過失で起きることもあります。そのため、必要な従業員以外に閲覧権限を与えないことや、特定の部署が厳格なルールに従って分析データを一元管理するなどの対策が必要になるでしょう。
人事データ分析の特徴や目的にもよりますが、自社の従業員の属性や特性を分析すると、さまざまな課題解決に役立つ可能性があります。例えば、優れた成果を上げられる人材には一定の傾向があります。社内の従業員を分析してその傾向を把握できれば、採用活動や人材配置・育成などにも役立つでしょう。
多くの企業が「人件費」や「生産性」に課題を抱えています。人事データ分析を活用して、プロジェクトにおける人件費と付加価値の関係性を分析し、最も好ましい人件費と生産性のバランスを見つけることができれば、コスト設計を最適化できます。精度の高い生産予測と理想的な人員配置が実現するので、より精緻な事業計画や売上予測が立てられるようになるでしょう。
人事データ分析に活用できるツール・システムとして、例えば、以下の2つが挙げられます。
エクセル(Excel)で人事データを収集すれば、ピボットテーブルでデータを集計できます。その結果をグラフやレポート形式で出力すれば、課題解決のために必要な施策が明らかになるでしょう。
しかし、エクセルの標準的な分析機能は限られています。より高度なデータ分析を行いたい場合は、マクロやVBAを駆使しないといけません。エクセルは手作業が必要な部分が多いため、効率的なデータ分析を行いたい場合は、専用ツールの活用がおすすめです。
人材管理(人事管理)システムは、従業員に関する情報を一元管理・更新・分析するためのシステムです。さまざまなシステムが開発・販売されていますが、主に従業員の労務管理、個人情報管理、人事評価を取り扱う機能を備えています。
システムによって特徴はさまざまですが、データの一元管理化により、検索・更新・情報共有が効率的に行えるのが共通点です。また、ほかのシステムとのデータ連携も可能なのが一般的なため、必要に応じて運用範囲を広げていくこともできます。
BIツールとは、ビジネスインテリジェンスツールの略称で、企業に蓄積した大量のデータを収集・分析して、経営や事業の意思決定に活用するためのものです。分析結果を簡単にグラフや表などで可視化できるのが特徴で、課題と仮説の考察をする際に役立ちます。代表的なBIツールとしては「Googleデータポータル」があります。
人事データ分析を行うためには、企業が保有するさまざまな人事関連情報を収集し、ツールやシステムで分析する必要があります。つまり、そもそも情報のデジタル化や一元管理化が進んでいなければ、スタートラインに立つことができません。
WorkVisionの『人事評価シートDX』は、人事データ分析をする際に欠かせない人事評価の情報をデジタル化し、効率的に一元管理するシステムです。エクセル(Excel)からでも簡単にシステムに移行できるため、既存の人事評価フローを変えることなく導入可能です。人事評価をエクセルで運用していたり、人事管理データの活用方法でお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
■人事評価シートDXの特徴は以下のページでも詳しくご紹介しています。
人事評価シートDXが選ばれる理由
生産年齢人口の急激な減少や、先進的な技術の普及などの理由から、これからの企業にとって人事データ分析は欠かせない取り組みになります。人事データを分析すると、生産性向上や人材育成、離職率の低減、最適な採用活動など、さまざまな企業課題を解決に導くことが可能です。
まずは導入可能な範囲で、自社の人事関連データのシステム化と分析をはじめてみてはいかがでしょうか。