2023.03.17
「MBO(目標管理制度)」は、ピーター・ドラッカーが提唱した人事評価手法です。MBOでは、目標設定から達成に至るまでの過程を従業員の自主性に委ね、モチベーションやスキルの向上を図ります。
この記事では、人事評価制度としてMBOを導入するメリット・デメリットや、実施するときの注意点について解説します。
目次
「MBO(目標管理制度)」は人事評価制度のひとつで、従業員が自身で設定した目標に対して、その達成度を評価する手法です。まずは、「MBO(目標管理制度)」を導入する目的について解説したうえで、以下の4つのよく似た言葉との違いを解説します。
MBOを実施する主な目的は、企業と従業員の目標を明確化し、それぞれのベクトルを合わせることです。
MBOでは、従業員はあらかじめ決められた「組織目標」を踏まえて、自身で「個人目標」を設定します。そのため、個人目標は組織目標と関連するものになり、ミスマッチを防げます。また、自主的に目標を定めるとモチベーションが上がりやすいため、スキルアップにも効果的です。
「KPI(重要業績評価指標)」は、プロジェクトの最終目標(KGI)を達成するために、満たすべき中間指標のことです。
MBOとKPIの違いは、目標を共有する範囲です。KPIはプロジェクトやチーム全体の目標なので、メンバー同士で共有して目標達成のために協力します。一方、MBOはあくまで個人の目標なので、基本的には上司のみと共有して、自身の目標達成とスキルアップを目指します。
「KGI(重要目標達成指標)」は、プロジェクトの最終目標を指します。前述したKPIを達成し続けた先に、KGIがあるとイメージすると分かりやすいでしょう。
MBOとKGIの違いは、KPIの場合と同じです。例えば、収益を前年比20%向上させることがKGIだとすると、顧客獲得数や問い合わせ件数などの指標がKPI、個々のスキルアップやタスク達成を目標とするのがMBOとなります。
「OKR(Objectives and Key Results)」は、「目標と主要な結果」を意味する目標管理手法です。OKRは、ひとつの「O(目標)」に複数の「KR(主要な結果)」が伴い、企業目標→部門目標→個人目標と、ツリー構造のように枝分かれしていくことが特徴です。
MBOとOKRは、組織目標をもとに個人目標を設定する点では似ています。しかし、OKRは個人目標が企業・部門・チームの目標とつながっており、評価の頻度も頻繁です。また、OKRは個人のパフォーマンス向上を目的とするため、人事評価と直結しません。
一方、MBOは基本的に本人と上司間で完結する目標であり、人事評価制度の一部である点が大きな違いです。
「従業員が達成すべき目標」という点では、MBOとノルマは同じです。しかし、ノルマは企業や上司が設定する目標なので、部下が自分で設定することはできません。そのため、やらされている感じがすることや、納得しにくいこともあるでしょう。
一方、MBOは従業員が上司と相談しながら自分で目標を設定できるので、モチベーションが上がりやすい傾向があります。
MBOの導入で得られる効果として、主に以下の5つが挙げられます。
MBOの目標は、企業や部門などの「組織目標」を達成するために、従業員が「自分にできることは何か」を考えて設定します。つまり、MBOは組織目標と密接に結びついており、互いにリンクしているということです。そのため、MBOを導入すると個人のベクトルを組織と一致させることができ、組織と個人の方向性が違うといったミスマッチを防げます。
MBOの目標は、基本的には従業員の意思で自ら考えて決定します。企業や上司に強制される目標ではないため、従業員は自己統制に基づいて業務を遂行し、目標の達成を目指します。その過程で、従業員の主体性やマネジメント能力が養われていくでしょう。
このことは、柔軟な姿勢で業務を遂行して成果を出せる「自律型人材」の育成にもつながるため、人材育成の手法としても効果的です。
人間は、自身で定めた目標や計画に基づいて行動するときに、「内発的動機」を得やすいと考えられています。内発的動機は、報酬のような外部から与えられる動機ではなく、内的な意識や感情から生じる動機です。
前述したように、MBOは「やらされている感じ」がしないため、仕事へのモチベーションが高まりやすい傾向があります。
アメリカの心理学者であるエドワード・L・デシによると、内発的動機に基づいて行動するとき、人間のパフォーマンスは高まりやすくなります。また、目標を達成するためには、一定のスキルや能力が必要です。
前述したように、従業員は内発的動機によってモチベーションが高まるので、自主的・意欲的にスキルアップを図ります。従業員の能力開発という意味でもMBOは効果的です。
MBOによる評価は、従業員自身が立てた目標の達成度によって行われます。目標と成果を踏まえて、「達成できたこと」と「達成できなかったこと」を振り返ることができることが特徴です。
そのため、上司は的確なフィードバックを出しやすく、従業員は改善点を明確に理解できます。MBOの目標設定と評価のサイクルを繰り返せば、効果的な人材育成ができるでしょう。
MBOのデメリットやその対処法について、以下の5つのポイントに分けて解説します。
MBOの目標は社員自身が決定しますが、目標設定の自由度には制限があります。MBOで求められる目標は、あくまで組織目標を踏まえた「組織目標を達成するための個人目標」だからです。
そのため、組織目標そのものに不備がある場合は、従業員が不満を感じる可能性があります。MBOの実施前に、適切な組織目標を設定し、その内容と方向性を従業員に浸透させておくことが重要です。
MBOは基本的に人事評価に直結するので、達成度合いを明確に評価できる「数値目標」が必要です。例えば、「売上を増やす」「効率化する」のような、曖昧な目標は設定できません。
従業員の自己評価と上司の判断が異なると、低評価を受けた従業員は不満を感じるでしょう。そのため、「前年比120%」のような定量的な数値目標を設定するように、事前に周知しておくことが重要です。
従業員が「目標達成」を強く意識しすぎると、目標を低く設定してしまうことがあります。MBOは従業員の人事評価や給与額に反映されるため、「ぜひとも良い評価を得たい」という従業員は少なくないでしょう。
しかし、目標設定が低すぎると人材育成の効果が十分に得られないばかりか、組織目標の不達成にもつながりかねません。そのため、目標設定が低すぎる場合は事前に上司が是正するか、評価時に目標の難易度も加味することが重要です。
MBOの評価は、管理職が個々の従業員に対して行います。そのため、部門やチームに所属するメンバーが多い場合は、必然的に管理職の負担が大きくなります。さらに、評価内容によっては従業員のモチベーションが下がる可能性があるため、精神的なプレッシャーを感じることもあるでしょう。管理職の負担を減らすためには、フィードバックの作業を複数人で分担するなどのケアが必要です。
MBOで設定する目標は従業員ごとに違うため、評価基準もそれぞれ異なります。不適正な評価を行うと、従業員のモチベーションが下がってしまいます。適正な評価を行うためにも、前述したように客観的に評価できる数値目標の設定が欠かせません。また、フィードバックや評価のスキルに関する研修・教育を管理職に行うことでも、MBOの評価品質を改善できるでしょう。
MBOの基本的な流れについて、以下の4つのステップに分けて解説します。
まずは、組織目標をもとに個人目標を設定します。このとき、組織の理想を強制すると単なる「ノルマ」になってしまうので、従業員が自主的に考えられるような雰囲気づくりが重要です。組織目標を達成するために、「何ができるか」「どんなスキルが必要か」について、本人と上司が一緒に検討するのがいいでしょう。
また、MBOの目標はできるだけ具体的に設定する必要があります。例えば、「新規案件を9月までに30件獲得する」「今年中に簿記の資格を取得する」など、誰が見ても達成状況が明らかに分かるようなものです。
目標の難易度は、現在のスキルより少し高めのラインに設定しておくと、スキルアップや人材育成の効果が高まります。
具体的な目標を設定したあとは、それを達成するための計画・戦略を練ります。このとき、目標達成のために必要な「手段」と「スキル」、つまり結果を左右する要素について考えることが重要です。例えば、「新規案件を9月までに30件獲得する」という目標を設定したのであれば、顧客へのアプローチ手段や営業スキルを検討する必要があるでしょう。
なお、目標達成までのプロセスは、基本的に「PDCAサイクル」で管理すると分かりやすいでしょう。PDCAサイクルは、「Plan(計画)」→「Do(実行)」→「Check(確認)」→「Action(改善)」を繰り返し、業務改善を続けるという手法です。このPDCAサイクルを何度も繰り返し、微調整を重ねながら進めていくことで、目標達成が近づいてきます。
次に、策定した計画や戦略を実行します。期日までの残り時間や達成状況を確認しながら進め、不足や遅延が生じている部分を修正していきます。前述したように、PDCAサイクルは何度も繰り返すことが重要です。当初の計画通りに進んでいない場合は、早めに問題点を把握して計画・戦略を改善しましょう。
なお、達成状況の確認や見直しのプロセスは、定期的に本人と上司の面談を行うようにすると、より効果的に進めることができます。このとき、上司はアドバイス役に徹し、計画・戦略の修正は部下に委ねましょう。自らPDCAサイクルを繰り返し、目標達成に向けて進んでいく習慣を従業員が身につけることで、問題解決能力に優れた「自律型人材」に成長しやすくなります。
当初に設定した期日が訪れたら、目標の達成度に応じた評価とフィードバックを上司が行います。このとき、本人も自己評価を行うことや、上司が「努力度」ではなく「達成度」という客観的な視点で評価することが重要です。そのうえで、目標設定から達成にいたるプロセスも検証し、「どこに問題があったか」「どうすれば目標を達成できたか」を本人に振り返ってもらいましょう。
なお、上司からのフィードバックは「昇進・降格」や「昇給・減給」などではなく、今後の組織内における本人の役割に関する内容が理想的です。本人の振り返りをもとに、スキルアップ・キャリアアップや目標設定など次につながる話をすることで、従業員の成長をサポートできます。
MBOの導入に失敗しないためには、以下の4つのポイントに注意することが重要です。
MBOの目標は、従業員のスキルに合わせたレベルに設定することで、モチベーションが上がりやすくなります。設定した目標は上司が確認し、「高すぎる」「低すぎる」と思われる場合は、相談のうえで適切な内容に是正することが大切です。
従業員がMBOの目標を設定する際は、「客観的に評価できるかどうか」も確認しましょう。例えば、「効率化する」という目標では効率化達成の基準が分からないため、評価が主観的になります。具体的な数値目標のような、客観的に評価できるものを設定してもらいましょう。
MBOの目標は、従業員自身が設定することが重要です。しかし、個人目標を上司が一方的に決めると、それは「ノルマ」になってしまいます。上司の役割は、部下の目標を承認・軌道修正することや、結果への評価とフィードバックを行うことです。そのほかの部分は、基本的に部下に委ねるようにしましょう。
MBOは基本的に「結果」だけを見て評価する制度です。途中のプロセスも評価対象に加えると、客観的な評価を行うことが難しくなるからです。しかし、結果しか見ない人事評価制度は、従業員のモチベーションや組織力が低下する原因になります。
そのため、従業員の行動を評価する「コンピテンシー評価」も導入するなど、プロセスも含めて評価できる仕組みづくりがポイントです。また、MBOで「中間目標・指標」も設定するようにして、KPIのように段階的に評価・フィードバックを行うのも効果的です。
人事評価にはさまざまな手法があり、今回ご紹介したMBO(目標管理制度)もそのひとつです。現在、「効率化」や「評価基準のばらつき防止」などの観点から人事評価業務のシステム化が進んでいます。しかし、人事評価をシステム化する場合は、評価体制やフローの変更が必要です。
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MBO(目標管理制度)は、従業員自身が目標を定める点が大きな特徴です。組織と個人のベクトルを統一できることや、モチベーション向上によるスキルアップを見込めます。また、組織目標を達成するために必要な計画やスキルについて考え、行動と改善を繰り返す習慣が身につくことで「自律型人材」の育成にも効果的です。